にゃんこスターはなぜあれだけ爆発したのか?
賞レースにおいて、「この芸人は何であんなにウケていたの?」という声が視聴者から上がることがあります。
例えばKOCのにゃんこスターが代表的で、「にゃんこスターにあれだけの高得点をつけた審査員、なんで?」という声がよく聞かれました。
しかし、実際あの大会においてにゃんこスターが抜群にウケをさらったのも事実。審査員があれだけ高得点を出すのも順当な結果ではあります。
私もあの年のKOCで1番笑ったのはにゃんこスターでした。
爆発的に笑った人もいれば、「なんでそんなにハマった人がいたの?」という人もいる。
同じネタを見たはずなのに、なぜ受け取る印象がこうも変わってくるのか?
個人的に感じるのが、
“リアルタイムで、緊張感を持ち、出来る限り余所見をすることなく会場の空気とシンクロしているかどうか”が一つ条件になるのかなと思いました。
大会の空気と同調しているか
賞レースにおけるお笑いは、録画のバラエティと違い「なにがどうなるか決まっていない」独特の緊張感があります。
どんなネタを披露するのか、審査員はどんな尖ったコメントをするのか、誰が優勝して誰が滑るのか、何一つ保証されていない中、
観客や視聴者は一定の緊張感をもって番組を見るわけで。
それこそが醍醐味の一つであり、お笑いの賞レースがここまで根強く支持されている要因の一つでもあると思います。
仮に全て録画だとしたら、恐らく人気の出方は変わっていた。
肝心の“ネタ”だけでなく、“生放送ならではの様々な刺激”という要素があるわけですね。
そして「このコンビがこんなに会場にハマっている理由がわからない!」という方は、
大会のムードに同調せず視聴した方の中に一定数いる、気がするかなと思いました。
例えば下記のケース。
・生放送は見逃したけど、公式が挙げている動画を後で見た
・優勝コンビのネタを、朝の特集で初めて見た
などなど。
大会の空気感とシンクロしていないと、大会の盛り上がりに同調しにくい、というのも至極当然ではあります。
“生放送による緊張感の中、大会の流れや前振りVTR、CMなどに付き合いながら画面を見守る”のと、
“結果の断片を見聞きした状態で、落ち着いた空気の中、自分のペースで録画や公式動画を見る”のとでは、
同じネタでも受ける印象は微妙に変わってきます。
独特の空気感が形成されていた
さて、にゃんこスターを例にして、「なぜ爆発したか」、その要因を流れに沿って以下に列挙します。
②にゃんこスターについての前提情報がほとんどない
③にゃんこスターに至るまでの色々なコンビのネタを見た
④にゃんこスターの前振りVTRを見た
⑤にゃんこスターのネタを見た
爆発的に笑ったという人の中には、以上の5点を満たした方に多いのではないかなと思います。
先ほどまで触れていた①の緊張感はもちろん、
②〜④も重要な要素。
“初見”の衝撃
②の「にゃんこスターに関する前提知識が無かった」というのは、本当に色々な意味でプラスです。
個人的に、“未知の状態”こそが最も物事を楽しめる状態の一つだと思っていて、
例えばM-1で爆発したコンビの中にも、「事前にスタイルが周知されていたら、そこまで爆発はしなかっただろうな…」という組もいると思います。
一方で、「このネタ見たことがある」という場合、
面白さが減るわけではありませんが、“初見”というインパクトは失われます。
“前見た時と比べてどれくらい面白くなってるか”という評価軸になってくる。
“あのくだり面白いから、残しておいてほしいなぁ”など、各々の思い出フィルターが作用したりもする。
「前と比べて、ここが改善されていたね!」「いやいや、そこは改悪点だろ」
それぞれが評価する視点も多様化していく。
“こんなの見たことない”という衝撃、ワクワク。
賞レースにおいて「初出場組が最も優勝に近い」という説が出るほど、
初見という状態が生み出すインパクトは大きい。
完全初見で流れの中でネタを見た場合と、
「今年のKOC、にゃんこスターってコンビが凄かったよ」という口コミを聞いて、心構えを作ってからネタを見た場合とでは、
受け取る印象はだいぶ異なると思われます。
流れの中で
“③にゃんこスターに至るまでの色々なコンビのネタを見た”
ここも重要な点。
全員で
同じネタを見た、
同じCMを見た、
同じ敗退コメントを聴いた…、
同じ時間を過ごし、同じものを共に見続ける中で、
観客全員が全く同じ心境になる!
……のは不可能ですが、
ある程度それに近い状態になっていく部分はあるはずです。
つまり前提情報が共有され、感情がシンクロしてくる。
2020のマヂカルラブリーがわかりやすい例だと思います。
2017の決勝での大ダメージ&上沼さんとのやりとりを知っている人はつい、
2020のネタ前紹介VTRや、せり上がりでの正座(土下座)の構えで笑ってしまう。
一方で「マヂカルラブリー完全初見です!」という人の場合は、あのVTRでそこまで笑うことはないでしょう。
“前提情報が共有されている”というだけで、年齢も性別も、普段の暮らしが全く違う人同士でも同じように笑うことができる。
これがにゃんこスターの時にも起こった現象だと思います。
にゃんこスターに至るまでの様々なコンビのネタやトーク、大会の流れを見た人が、次第に心の中でシンクロする部分がある程度増えていき、
結果共通して笑うツボになったのがにゃんこスターだった。
ちなみに、別に「にゃんこスターのあのネタは、大会の空気などの追い風込みじゃないと面白くないんだ!」と言いたいわけではありません。
どんなに大会の空気に乗れたとしても、あのネタのクオリティが酷いものだったら絶対に爆発はしていなかった。
あのスタイルを知っている現在の私たちからすると、当時のように笑うことはないかもしれませんが、
それは程度の差こそあれど、あらゆるネタに当てはまるわけで。
5回見て飽きるネタもあれば、20回目で飽きるネタもある。
程度の差だと思います。
そもそも「何らかの追い風や向かい風は、全てのコンビが受けている」と言っていいと思います。
大会の流れなど色々な空気を体験した状態で、色々な追い風や向かい風が入り混じった上で、ネタを見て、“笑った・笑わなかった”。
賞レースにおける順位とはその積み重ねだと思います。
「優勝したのは順番が良かったから!」
「こんなに順位が低かったのは順番のせい!」
結果の全てが順番のせいかはともかく、
順番による色々な有利・不利は乗っかって当たり前です。
吹いている風に乗れたコンビもいれば、思うように飛べなかったコンビもいる。
ただ、そもそもポテンシャルの高いネタじゃないと、どんなに追い風が吹いていても飛べはしない。
そういう意味で、あれだけの爆発を起こしたにゃんこスターはその結果を軽視されるべきではありません。
トップバッターが不利な事情
少し話は逸れますが、トップバッターのコンビが笑いを取りにくいのは“観客の中の共通の積み重ね不足”という事情も少なからずあると思います。
トップということで客席の暖まり具合が足りない・審査員が点数をつけづらい…ということだけでなく、
見ている人たちで過ごした時間が短く、共通の感情や価値観になるほどではない。
マヂカルラブリーのように、前提となる流れが共有されていないから、笑いのツボも均されていない。
仮にトップバッターがにゃんこスターだったら、反応はもう少しバラけていた気はします。
というかにゃんこスターに限らず、“観客一体となって笑う”ということはトップバッターでは中々起こりづらい。
前振りVTR
④の“にゃんこスターの前振りVTRを見た”も同様に、観客が共通の情報を受け取るわけですが、
ただここで披露された前振りVTRが本当に秀逸で。
“結成最年少”
“笑いの歴史を変える”
“革新的なオチ”
……
などなど、
とにかくお笑い好きの心をこれでもかとくすぐってくる文言が、VTRに出演する著名人の姿と共にずらりと並ぶわけですね。
にゃんこスターに関して何も知らない状態に、この刺激的なキャッチコピーが入り込むことによって、
“未知のものに対するワクワク”が観客の心の中で盛り上がってくるわけです。
結成年数も極端に浅いため、
「これだけコンビ歴が若いのに勝ち上がってくるということは、本当に天才的・革新的なネタをするのでは」
と期待も増幅する。
そしてそれらが観客に共通の認識として設定された上で、
にゃんこスターのあのネタに突入するわけです。
「どんな革新的で、理解が必要なネタなのだろうか」と思わせておいての、あのシンプルな天丼ネタ。
コントなのに“最後に本人として再登場し、挨拶をして終わる”という、KOCでは全く見ることのなかった斬新なオチ。
“結成年数が若い”・“男女コンビ”というのも、M-1における南海キャンディーズのように「新しい!」感を構築する要因になっていたと思います。
まとめ
ということで、「なぜにゃんこスターが爆発したのか」ということをテーマに語ってきました。
あれだけ爆発したのも、高い評価を受けたのも妥当だと思います。
②にゃんこスターについての前提情報がほとんどない
③にゃんこスターに至るまでの色々なコンビのネタを見た
④にゃんこスターの前振りVTRを見た
⑤にゃんこスターのネタを見た
視聴者からすると、本番の流れに乗るというのは重要。
無理して乗ろうとすることは当然ないですが、何かの片手間だと乗りたくても乗れないケースはあるかもしれません。
せっかくの生放送ですので、ある程度集中して見てみるのも良いかと思います。
はい、というわけで今回は以上となります。
また次回!
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